人生ってドラマばかり。
平凡な人生だと思っていたある日、それが逆転した。
後戻りはできないけど未来は変えられるはず。
せっかくのドラマだから、演じてみよう。
きっとたくさんの人の心を動かせるはず。
そんな力を信じて舞台に立とう。
叫ぼう、表現しよう、魔法にかけられよう。
About Project
プロジェクト概要
順調だったはずの人生に突然やってきたがん宣告。
もう、旅行に行ったり、美味しものを食べたり、楽しめないんじゃないか。仕事や夢も諦めなければいけないんじゃないか。不安や迷い、孤立しながら絶望的な気持ちで日々をやり過ごしてきた。
周囲には言いづらい家族にすら打ち明けられない本音や悩み。これまでこんなにも死を意識したことはなかった。
それでも日常はやってくる。治療中でも子育ては休みなどはない。2歳の息子の相手にはユーモアを交えながら。仕事に復帰しアート活動にも手が伸びてきた頃、再び春が訪れ桜が咲いてくれた。
ルーティンってなんだかほっとする。当たり前がきてくれてなんだか安心する。こんな些細な日々の小さな喜びを重ねるうちに、過去の自分を取り戻し身体の声に耳を傾けながら現在に至っている。
「がんは治療しながら長く生きられる時代」だからこそ
がんに罹患してから、もう一つ救われた学びがある。
それはがんの劇的寛解を果たした ”10の習慣” を紹介した本からのもの。
直感を信じること、生きる意味を見つけることなど、考え方を少し変えることで日常生活を変化させ自然にがんが消えたという希望の話。アートサークルやアートセラピーによって抑圧された感情を解放することの大切さも学んだ。
死がちらつく耳をふさぎたくなる話とはうらはらに、劇的寛解を果たしたがんのサバイバーの話は、一筋の光のように希望が持てるものだった。
一人のがん経験者として私にできることは、同じ経験をした人たちと対話し交流しながら
彼女たちに宿るパワーや創造性を写真に残していくこと。
がん患者やサバイバーは、がんを経験したことで輝き等身大で生きている。
そんな姿や語りを引きだすことで、新たな自分を発見するお手伝いができれば私も嬉しい。
プロジェクト詳細
Life in Doramatic(L/D プロジェクト)では以下の活動を考えています。
がん患者の語りづらさに関する調査研究
周囲から心配されたくない, 仕事に影響するなど,「がん=死」という病が持つ負のイメージによっ て, 多くのがん経験者, とりわけ女性たちは特有の悩みを抱えている。この現状に対して、作品づくりによる表現の表出と自己の発見が、どのように 「私の回復」につながるのか、作品、インタビュー、アンケート回答を元に考察を行います
自己表現(アート)やパフォーマンス性が、がん患者のWell-beingに効果的であるかについて研究
そのためにクリエイティビティーを促すアートワークショップを開催予定。
がん寛解のための 10か条の習慣を紹介します
これまでDr. Kelly TurnerによるRadical Remissionプロジェクトワークショップに参加し、Dr.Turner 著「Radical Hope」の翻訳を担当しました。
日々のCreativity表出ががんサバイバーシップケアにどのように有用であるか検証する
写真撮影やドローイング、コラージュなどによる毎日のcreative output(創造性の表出)が、がんサバイバーの日々の不安を改善、Well-beingを獲得できるかどうかを探索的に検討するプロジェクトです。
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日本学術振興会 科学研究費助成事業

「表現の場」の実践から
2011年の震災を機に、海外での芸術活動を切り上げ、アートに社会貢献は可能であるのかについて研究を続けてきました。父の故郷である福島県浪江町の原発避難者の方達の記憶をアーカイブするために「浪江の記憶を守る会」を設立し、様々な方法で彼らの記憶や物語を蓄積してきました。
その過程で、語りづらさを抱えている方々は、実はある程度のパフォーマンス性を促すことで、積極的に語り出し(表現)さらにそれが癒しになるということがわかりました。(佐々木, 2018)。
無理に語らせるということではありませんが、語ること、表現することについては、海外の医療現場でも積極的に表現することを取り入れる Art as medicineや自己物語を語るNarrative medicine が実践されています。
例えば、化学療法中のマインドフルネス対策として、カラフルな絵画が壁面いっぱいに描かれている空間を作ることで、精神の安定につながり、それが結果的に副作用の軽減や免疫力アップに繋がることも研究で報告されています。
L/Dプロジェクトは、がん患者をはじめ、様々な慢性疾患を抱える方々の自己に眠る創造力に働きかけながら、等身大で前進していくことをお手伝いします。決して、パフォーマンスをして、別人の人格を手に入れるのではありません。別用の自分に触れることで、エンパワーメントが促されたり、表現した創作物を他者が鑑賞することでも、他者の心を動かします。このような触発が、きっと前に進む力になることでしょう。
【参考文献】佐々木加奈子, 協働の場における多元的なライフストーリーの創出:E.ゴフマンの演劇論的アプローチからの考察, 『社会情報学』第6巻2号, 社会情報学会, 2018年4月
プロジェクト代表
佐々木 加奈子 / Kanako Sasaki
仙台在住。2001 年に米国 Ithaca Collage (BA ジャーナリズム)卒業し、2004 年に School of Visual Arts(MFA)を修了。2006 年英国 Royal Collage of Art に留学。以後 10 年間ニューヨーク を拠点に、写真や映像を用いてアート活動を行ってきた。その後、2011 年の震災を期に帰国し、東北大学大学院情報科学研究科にて社会学を学び、博士(学術)を取得し、2014 年から「浪江の記憶を守る会」を設立し避難者の記憶のアーカイブ活動を行ってきた。
2020年に乳がんに罹患したことをきっかけに、女性がん患者、サバイバーのウェルビーンの向上のためのプラットフォーム構築のために、経験者が表現する物語に焦点をあてながら、その自己語りがもたらす回復可能性について研究を進めている。現在、東京大学先端科学研究センター当事者研究分野にてエンパワーメントのためのサバイバーシップケアの構築に従事。
